虐待と精神病(心の闇)

彼は生まれ、幸せだった

彼はF県K群H町生まれ
のどかな田舎で目の前には大きな山があり、ふもとにはきれいな川が流れている
その中の小さな商店街で彼は生まれ、幼年期を過ごした

 

彼には母のお腹の中の記憶がある
今思えば下から見上げていたような感覚と記憶がある、おそらくは生まれる直前の記憶であろう

 

居心地はよかった、ずっとこのままでいいと思っていた、ある時気持ちに変化がうまれ、
「もうここから出なくてはいけない」というような感覚になった
今思えば女性の声がしていた
そして急に慌ただしくなり
頭から狭く暗い道の中に頭を滑り込ませていった
とても息苦しくて怖かったのを覚えている

 

次に気付いたのは白い部屋
白いカーテンが風になびいている
とても穏やかな気持ちだった

 

父はバンドをやっていた
ライブにいった記憶が薄っすらある
父のドラムを叩いて遊んでいたこともあった

 

住む家が変わった、大きな黒い木造の家
父方M家の本家である
祖母、曾祖母、父の妹、両親、姉、そして彼という大所帯
彼は「跡取り」という事でとてもかわいがられていた
その後すぐに家を3世帯用に新築した
窓を開ければ山が四季折々の姿を見せてくれる

 

父は会社員、母は自営業ということで彼は保育園に入園した
はじめは駄々をこねたが3日で慣れた
保育園にはワルガキがたくさんいた
ウサギを入れる小さな部屋に閉じ込められたり、よく喧嘩もしていた
いつもお気に入りの野球帽をかぶっていて、保育園から帰ると優しい母が
待っていてくれた
親友もいたし、その親友の母と彼の母も親友だった

 

たまにお店番をすることがあり、お客さんが来たら母を呼ぶ
その程度しかできないのだけれど
ある日、サングラスをかけたガラの悪い男が店に入ってきた
「おいボウズ、お前自分の名前は書けるか?」
彼は少し見栄を張って首を縦に振った
B5サイズよりも一回り小さい紙に自分の名前を書けと言われた
ペンを持ち、名前を書こうとしたが やはりまだ字を書くことができなかったので
母を呼んだ
すると母は「ちょっと部屋に入ってなさい」と彼を店から追い出した
聞き耳を立てていると母の声が聞こえてきた
「ちょっと帰ってください!警察を呼びますよ」
しばらくすると男は帰って行った
「誰が来ても絶対に名前を書いたらいかんよ!」母に言われた
彼は「うん・・。」とうなずいた
その時には分からなかったが、父が働いている会社に寄生している暴力団だったっらしい
幼い彼には大人の事情は分からない、周りは大変だったが
彼はそれでも幸せだった

 

優しい父、彼にとって父は優しくそして大きな存在だった
もっと言えば母よりも父のほうが好きだったかもしれない
父の仕事が早く終わった時にはゲームセンターに連れて行ってもらい
よくわからないゲームを楽しんだ

 

夜寝る前には家族四人でトランプをやった神経衰弱、ババ抜き、7並べ
特別な日には大きな板チョコレートを割って虫歯にならないように暖かいお茶を
飲みながら食べたりもした

 

彼はとてもとても幸せだった・・・

 

 

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